亜希の航海日記

(引き続き亜希視点)
  
  はぁ、前回は下ネタ続きでごめんね。
  いや、いきなりGスポなんかゲシゲシやられちゃったから、最後は意識なかったし。いやあのね、女の身体って信じられないくらい敏感なのよいやマジで。特に私、ずっと五感なかったじゃない?そこにいきなりアレだもん。世の中の女の子がどのくらい感じてるのか知らないけど、ひどかったんだよ。一時は完全に中毒だったもん。今はだいぶマシなんだよこれでも。影護がいなきゃどうなってたんだろ、ほんと。
  え?あんた本当に元アキトかって?そ、そりゃないよ〜嘘じゃないって。そりゃこんなに変わり果てちゃ証明する方法なんて何もないけどさ、確かに私は元アキトだよ……まぁ確かに、もう遠い夢みたいな気がするけどね。
  ところで話は変わるけどそろそろ、ナデシコのナデシコらしい話もしたいと思う。
  だってそうでしょ?ナデシコがある意味一番ナデシコらしかった平和な時代って、実は火星までの時間だと思うんだ。火星じゃ「こんなはずじゃなかった」が始まったし、地球に戻ってからは軍に組み込まれ、…やがて訪れた黄昏。相手が人間で、憎しみが憎しみを呼んで、どろどろの思惑が交錯して。ね、そうでしょ?ナデシコのナデシコたる最も純粋だった時代、それが火星までの時間だって思うんだよ。
  さて、そんなわけで艦内をうろついてみよー。え?仕事はないのかって?ないんだなこれが。三時になったらブリッジにお茶いれに行くとかはあるけど。え?ごはん?いや、昨夜の影護がアレだったでしょ?ムカついたから私、朝ごはんヌキだとっとと行けって叩き出しちゃったんだわこれが。だから今日は外食。影護はどうすんのかねえ。あいつにカード渡してないからね。ナデシコじゃ現金使えないし、あいつ妙なとこでプライドあるから誰かに頼るなんて絶対できないし。けっ、餓えろ餓えろ!あはははは。
  
(はぁ…とかなんとか言いながら、しっかりお昼作り置いてあるじゃないですか。)
(ふふ、なんだかんだいって旦那様を餓えさせるのは忍びないんでしょ?わかるわかる)
(む、なんでわかるんですかユリカさん?結婚どころか恋人もいないのに)
(うん、いないよ。でも戦争終わったらアキトに逢いに行くんだもん!ふふ)
(そ、そうですか…)
(?)
(いえ、とりあえず今は未来のことじゃなくてですね…)
(!亜希さん行っちゃったよ?追跡だよルリちゃん)
(あ、はいわかってます。オモイカネ、よろしく)
  
  
  
「しっかし、いきなり来て飯食わせろとは…なんかあったのかい?」
「言うなリュウ・ホウメイ。これには深い事情があるのだ」
「はいはいわかってるよ。にしても食堂に来ればいいだろ?なんだってあたしの部屋に来るんだい?」
「我らのカードは全て亜希が握っておるのだ。遺憾ながら」
「あっはははは。しっかりした奥さんじゃないか。ちょいと身体が弱いのが気がかりじゃあるけどね」
「…そうかもしれぬな」
「ふうん…しっかし、思い出すねえ」
「ん?」
「いや、昔、軍にいた頃なんだけどさ。ほら、新兵って暇も金もないだろ?時々こうやってあたしんとこに駆け込む奴がいたのさ。毎年ひとりは確実にね」
「ほう。どこの世界も変わらぬものだな。」
「?うん?どういう意味だい?」
「いや、我の新兵時代にもそういう「おふくろさん」みたいな存在がいたものよ。…まぁその意味では、我は進歩がないと言えるな。この歳で同じ事をしておるのだから」
「そうかい。…そういやあんた、火星出身だっけ?やはりそれは火星守備隊の話かい?」
「…いや、違う」
「…」
「…もう戻ろうにも戻れぬ祖国よ。…いつかは戻るつもりだがな」
「…そっかい。奥さん連れて?」
「無論。我の連れ合いはあれしかおらぬ。あれしかいらぬ。」
「…ふふ、はははは」
「?何がおかしい?」
「いや…あんたも言うね影護さんとやら。やれ、ごちそうさまなこった。にしてもさ」
「うむ?」
「先に言ってくれればパイロット向けの食事くらいすぐ用意してやれたのにさ。干物なんかじゃなく」
「まさか。無理を頼む身でそのような真似はできぬ。それに」
「それに?」
「一流のコックは素朴な食事を好むという。さすがはリュウ・ホウメイと言うべきか。うむ」
「はぁ?…はは、そりゃほめてんのかい、それともけなしてんのかい?」
「うむ???褒めたつもりだったのだが…すまぬ、どうも我は口下手のようだ」
「…」
「?」
「あはははっ!面白いねあんた!気に入ったよ!」
「???そ、そうか??」
  
「(ぼそっ)ちょ、ちょっとぉっ!!なんでいきなり裏技決めてんのよあいつ!!極貧時のホウメイさん頼みって、私が昔やってた事なのにっ!!」
  
(…情けないこと主張しないでください、亜希さん。ハァ)
(あはは、そういう時代あったんだね亜希さんも)
(ちなみにユリカさんにも時々頼ってましたよ。同居はじめてからはやめちゃいましたけど)
(へぇ〜。やっぱり美味しいご飯作ってあげたりしてたの?ねえねえ)
(ええ。…そして私が知るだけでも数回は倒れ、入院騒ぎにもなりましたね)
(…へ?)
(あれ?ルリルリに艦長、何見てるの?)
(!あ、ミナトさん。実は(ぼそぼそぼそ))
(へぇ。でもそれってプライバシーの)
(いえ、自室をモニターしてるわけじゃありませんし別に)
(んー、それもそっか。) ←(「よくありません!」 by プロスペクター)
  
  
  
  場所は変わって、こっちは格納庫。
  さっきホウメイさんが休憩していた事からもわかると思うけど、朝ランチの時間はもう終わってる。メカニックさんたちは午前の仕事の真っ最中だ。
  …あれ?ガイとウリバタケさんが何か話してる。なんだろ。
「ウリバタケさん。ガイ。どうしたの?」
「よう!ナナコさん!」
「!お、亜希ちゃんか。今日はどうしたんだ?」
  なにげにこの2人って気が合うみたい。ウリバタケさんは「こんな暑苦しいのと一緒にすんな」とか言ってるけど。
「あはは、退屈だから見物なの。ごめんね」
「ほう。めずらしいな。最近はあちこち駆け回ってて急がしそうだったのに」
  まぁ確かにそう見えたかも。
  オブザーバって平時は無職だけど、無職ったってもともと無いも同然の職種でしょ?暇なはずなのに時として、あちこちから呼ばれる事もあるんだなこれが。
  たとえば、副長のジュンが抜けてるから書類がたまってるでしょ?ユリカは書類って苦手だしルリちゃんの話によると、史実じゃナデシコの書類整理ってプロスさんとジュンのふたりが大多数やってたらしいのね。するってーとプロスさんに私が呼ばれる。ブリッジ要員じゃ閑職のひとりだし、フクベ提督には当然頼めないもんね。当然そうなるわけ。権限上どうかと思うんだけどねえ。
  で、私はこう答える。
「いそがしいって言ってもプロスさんに頼まれた事務の雑用だったし。それも終わっちゃいましたし。」
「なるほどな。…じゃあ丁度いい。ヤマダにちょっとした玩具を見せるとこなんだが、一緒に見るか?」
「…おもちゃ?ガイに見せるような?」
  …まさかね。あれが出るにはいくらなんでも早いでしょまだ。…ねえ?
  
「嘘…まさか、フィールドランサー?」
  そのまさか、だった。
  ピンクのエステの横に、懐かしいあのフィールドランサーがあった。ナデシコ時代の後期に大活躍した、フィールドを撹乱し無効にできる新兵器だ。
  で、でもどうしてこれが今?一年以上も早いよ出るのが。
「お?その名前悪くねえな!もらっていいか亜希ちゃん?」
「!え、ええ…うん、いいけど」
  ウリバタケさんは一瞬だけ厳しい目をしたけど、すぐにニッコリ笑った。
「なあ博士、これ何か新兵器なのか?フィールドって事ぁ、ディストーションフィールドと何か関係するのか?」
「!お、ヤマダ、おめえもよく気づくな。その通りよ!」
  ノリのいい奴は嬉しいねえ、なんてウリバタケさんは楽しそうだ。
「このフィールドランサーはな、ディストーションフィールドを一時中和する能力がある。たとえばエステ二台でフォーメーション組むだろ?ひとりがこいつで戦艦のフィールドに穴あけて、もうひとりがミサイルか何かぶちこむ。こうすりゃエステでも戦艦が落ちるって寸法さ。な?」
「!!おぉぉぉっ!!すげえ!!もしかして熱血斬りもできるのか?」
「…バカ。ランサーっつったろ?槍だよ槍。斬るんじゃねえ突くんだよ」
「む、なんだそっか。」
  あはははは。昔の私とおんなじ事言ってら、ガイってば。
「それにしても、亜希ちゃんはどうしてこいつがフィールド破りだとわかったんだ?」
「え?ああ、あれあれ。あの出っぱり」
  私は、ランサーの反フィールドジェネレータを指差した。
「よくわかんないけど、あれってジェネレータじゃないかって思ったの。だったら形状から想像できるものって…というわけ。ま、あてずっぽなんだけど。…あってるかな?」
  すると、ウリバタケさんは感心したように頷いた。
「ご名答。しっかし亜希ちゃん、あれがジェネレータってわかるのか。大したもんだぜそりゃ」
  ウリバタケさんは納得したらしい。満足気に笑っている。
「えへへ。…ねえウリバタケさん、このランサーって誰が作ったの?発案は?」
「これか?うむ、発案はルリルリ。作ったのはもちろん、俺だ。」
「へえ」
  ルリちゃんか。…でも、あまり兵器開発を促進させるのは感心できないな。あっちに知られてパワー・ゲームになるだけじゃん。後で言っとこっと。
「ルリちゃんって設計もできるの?」
「はは、まさか。図面を引くってのは経験が大きいんだ。そいつはいかにルリルリでも無理だな」
  へぇ。そんなもんなんだ。
「AIと作成ソフトに頼れば素人でも設計はできる。その意味じゃルリルリにも設計自体は可能だろう。
  だが、素人設計はその後に問題がある。動くことは動くがメンテナンスできねえとか必要強度がまるっきり足りねえ、あるいは戻りが出て使えねえとかな」
「へえ」
「まぁ、既存のものを作るなら雛型があるわけだが新開発じゃそれもできねえだろ?こうなると役立つのはノウハウの蓄積。簡単に言や経験の世界って奴だ。わかったか?」
「なるほど〜。うんわかった!」
「亜希ちゃんもなんかアイデアあったら持ってきな。できるもんなら形にしてやっからよ」
「うん。その時はよろしくねウリバタケさん」
「おうよ。任しとけや」
  
「それにしてもよぉ」
「ん?どうしたヤマダ?」
  じっとランサーを見ていたガイが、ふと声を投げた。
「これ、確かに強力だが…これ使うって事は殴りあいできるくらい接近戦しなきゃなんねえって事だよな?」
「む、まあそうなるな」
「フィールド破るったって風船割りじゃないんだ。一瞬じゃ破れないだろ?博士、たとえば戦艦のフィールドがエステくらいとして、破るのにかかる時間はどれくらいだ?」
「!」
  へぇ〜。ガイ、するどいじゃん。影護が目ぇつけるわけだわ。
「エステと同等?そりゃかなり強ぇな。」
「俺もそう思う。けど、相手がいつまでも同じ能力とは限らねえ。強めで頼む」
  …いいけどガイ。「強めで頼む」って…なんかマッサージでも頼むみたいだよ?いいけどさ。
「む…概算だが少なくとも数秒かかるな」
「数秒か…」
  むう、と腕組みをしてガイは唸る。
「その間、そいつは動けないんだろ?とすると2人じゃ危ねえな。ひとりでひとりの護衛が完全にできるなんて影護の奴でもなきゃ無理だし…なあ博士。三本ほど作れねえか?」
「三本?そんなにどうすんだ?」
「一本は予備。あとは俺と影護ペア用、もう一本はスバル・アマノ・マキ用ってとこだな。」
「お、なるほどな。わかった。そのかわりこいつのテストにつきあえ。いいな」
「おう、わかったぜ!」
  成長してるんだね、ガイ。…ふふ。よかった。
  
(はぁ…なんか亜希さん、目が潤んでるかも。)
(もしかして…不倫?)
(それはないでしょう)
(どうして?ルリルリ?)
(ヤマダさんは亜希さんにとって、そうですね…過去の象徴みたいなひとらしいです)
(?どういうこと?)
(亜希さんは昔、ヤマダさんみたいな親友がいたんですよ。…けどこの方は亡くなってしまいました)
(あ…そ、そうなんだ)
(だから亜希さんはヤマダさんをほっとけないんです。色々手助けしたり見守ろうとするのもそのためです)
(へぇ…でもそれってさルリルリ)
(はい?なんですかミナトさん)
(親友の彼女や彼氏と恋に落ちるって…結構世の中にはあるんだけど?)
(………な、ないでしょう、たぶん)
(…ルリルリ、焦ってる?)
(冗談じゃないです。…ていうか、そんな事になったら影護さん大変です。)
(!!)
(考えたくもないですが…先日の戦闘からいっても影護さん、エステでナデシコ落とせますよ?)
(…)
(それに、影護さん白兵戦もイケるみたいです。先の軍による徴用騒ぎの時、ゴートさんたちと一緒に活動したりクルーを襲おうとした軍人さんを涼しい顔で倒してまわってます。おそらく相当の腕前かと)
(…)
(…どうしますか?)
(…だ、だ大丈夫よ、……ねえ、ル、ルリルリ?)
(いえ、そこで同意を求められても困るんですが)
  
  
  
  さて、展望室。…久しぶりだな〜。ナデシコAの展望室に来るのって。
  ちなみに知ってる?展望室といっても実際に窓があるわけじゃないの。ここはいわば「展望室っぽく景色を写す一種のバーチャルルーム」なわけ。でもとってもリアルで、本当にその景色の中にいるみたいに見えるんだけどね。
  …おりょ?
「…」
  メグミちゃん、座ってる…膝抱いて憂鬱状態。なんで?今回はサツキミドリで死者も出てないのに?
「…メグミちゃん」
「?あ、亜希さん」
  ふう。実は私、「今回」はメグミちゃんとあまりお話してないんだよね。
「どうしたの?」
「…」
  物憂げな顔でメグミちゃんはうつむく。
「…なんか、嫌だなって」
「嫌?」
  こくん、とメグミちゃんは頷いた。
「私たち、人助けに行くんですよね?」
「…うん、そうだね」
  あぁ、そっか。メグミちゃんは…。
「なのにみんな、まるで戦争するみたいな雰囲気になってて…艦長なんか戦闘訓練もはじめちゃうし。なんだか私」
「…そうだねえ。あ、隣いい?」
「あ、はい。どうぞ」
  私はメグミちゃんの隣に座った。
「人命救助だよねナデシコの仕事は。とりあえず今は」
「とりあえず、ですか?じゃあ戦争にこれから変わるって事ですか?」
「…メグミちゃん」
  私は真剣な顔をしてメグミちゃんを見た。
「戦争と人命救助の違いってなに?」
「え」
「火星は今、敵に占領されてるでしょ?それをぶち破って行かなくちゃいけないんだよ?ね?」
「…で、でも、戦うのは」
「じゃあ、蜥蜴さんに「人道上の問題なので道あけてください」って言う?…いや、もしかしたら冗談ぬきでお話聞いてくれるかもしれないけど、だからってハイどうぞって道あけてくれるとは思えないよ?」
  う〜ん。うまい言葉が見つからないなぁ。
「…どうして思えないんですか?」
  おりょ?乗って来た。むう、ま、いっか。
「会戦時に火星に居たのよね、私。生き残りってわけ」
「!!」
  メグミちゃんの目が丸くなった。
「蜥蜴たちは明らかに人間を狙ってた。どこまでも追って来て殺そうとした。…だからわかるんだよメグミちゃん。そうでしょ?蜥蜴たちの目的はたぶん火星にいる人間を全部やっつける事。だったら、人道上の問題なんて大笑いだね。むしろ、助けに来たっていう私たちを大喜びで殺しに来るかも」
「!!!」
  わ、今度は青くなった。…ちょっと恐がらせちゃったかな?
「…怖いよね?」
「は、はい」
「だから戦うんだよ、みんな」
「…」
「戦わなきゃ自分か殺される。自分は無事でも家族が、友達が、親しい誰かが殺されるかもしれない。だから戦う。理由なんてないんだよ。」
「…」
「失うのが嫌なら戦うしかない。私みたいに何もできない子は戦えないけど、それならそれで後方支援って手がある。影護のご飯作るのだって、私にしてみりゃ後方支援だと思ってる。私の分も影護は戦ってくれてるんだから」
「…何もできない?だって亜希さんって」
「オブザーバの事?それこそまさか、だよ。あんなの、メグミちゃんのお仕事に比べればなんの役にも経ってないし」
「え…わ、私の仕事、ですか?」
「うんそう。プロスさんに言われなかった?あなたの声を買いたいって」
「!あ」
  メグミちゃん、何かを思い出したような顔をした。…もうちょっとかな?
「あのね。メグミちゃんの声って男性クルーに大人気なんだよ、可愛いって。
  ナデシコって民間船だけど戦艦でしょ?普通、戦艦の通信士なんて不粋な野郎かお局侯補みたいな年増のカタブツな声ばっかなんだよね。なのにメグミちゃんの声って可愛いもん。癒されるってみんな言ってるよ」
「…声…わたしの…声」
  へへ、復活しそうな感じ。うんうん♪
  ちなみに、メグミちゃんに言ってるのは史実でもあるし本当のこと。そりゃ人間だから人格的には好きずきあるだろけど、疲れた時にメグミちゃんの声はいいって評判だったんだ。なにしろ元声優だし、軍人みたいにガチガチの放送しないもんね。ユリカみたくフニャフニャでもなくて、きちんと基本は押さえてるし。
  プロスさんの見立て、確かに正しかったんだ。
「私はメグミちゃんに…がんばって欲しい」
「…」
「たぶんこの先、いろいろあるんだと思うの。だって戦艦でしょ?」
「…」
「こんなはずじゃなかったって思う事もある。つらい、もう嫌だって思う事もあると思うの。だってここは戦艦だもん。誰かを守るために誰かを倒す、そんなつらい仕事を買って出た人達の乗る船だもの」
「…う、うん」
「私もメグミちゃんも、自分じゃ戦えないよね。
  繰りかえすけど、武器を持つだけが戦いじゃないんだよ。お料理してるホウメイさんや食堂のみんなだって戦ってる。暖かい食事があるのとないのとでは人間、士気のありようが全然違うから。一度だって最前線に行った人間、直接戦った人間なら誰でも知ってる。そういう事が嬉しくて、有難くて、欠かせないんだよ。メグミちゃんの声だってそう。いなくなって欲しくない。がんばっていてほしいよ」
「…」
「あ、あははごめん。私、自分でも何言ってるのかよくわかんないや…ごめんね、馬鹿で」
「…」
「…あの、メグミちゃん?」
「…」
「…」
  いや、あのそんな、うるうる顔されても…困ったな。
「亜希さんって…すごいですね」
「へ?何が?」
「…わかってないんですか…ふふ、いいですけど別に」
「…はあ」
  何がなんだかよくわかんないけど、メグミちゃんは立ち直ったっぽい。うん。
「亜希さん」
「ん?…!?」
  え?え?…な、なんで抱きついてくるのメグミちゃん?え?え?え〜!?
「あ、あの…メグミちゃん?」
「ごめんなさい…しばらく、こうしてていいですか?」
「…」
「…」
「…う、うん。しばらくね。後でブリッジにお茶煎れに行くから、それまで」
「…」
「…あー…ま、いっか。」
「…」
  とりあえず、幸せそうに抱きついてるメグミちゃんの横顔を見つつ、私はホッとため息をついた。
  
(…)
(…)
(…なに、いきなりフラグ立ててやがんですか亜希さんはっ!!)
(ルリちゃん落ち着いて、どうどう。)
(だ、だだだってユリカさん!女同士で、女同士なのに!)
(あははは(錯乱ってるルリルリも結構可愛い♪)、まま、落ち着きなさいよルリルリ)
(で、でもミナトさん!亜希さんは)
(…無駄だと思うよルリルリ)
(え?…何がですかミナトさん?)
(あれ、思いっきり素だよたぶん。亜希さん、自分のやってる事に自覚ないと思う)
(…はぁ)
(ま、メグミちゃんも「ノリ」だと思うし。ルリルリが心配するような事はないよ別に。せいぜい「仲良しになった」っていうとこだと思う)
(そ、そうですか…にしても亜希さんって)
(…まぁ、天然よね)
(天然だね)
(やっぱ天然…ですか。)

(((…はぁぁぁぁ…。)))

hachikun-p
平成15年11月30日